軽いめまい
一度だけ、小説家のサイン会というものに行ったことがあり、それが金井美恵子のサイン会で、主催者側としては新刊のエッセイ集の販促も兼ねて(というか、それが目的)いたのだけど、私はそのエッセイ集ではなく、同時にその場で売られていた「噂の娘」という小説を買って、サインの順番待ちの列に並んでいたら、店員が駆けてきて、「新刊のエッセイ集を買わないとサインしません!」と言われ、あやうくケンカになりそうになったのだけど、まもなくそれは店員の認識違いであることがわかり、無事にサインはして貰えたものの、店員は結局謝りもせず、「今回だけは、金井先生の恩情で」みたいな形で、あくまでこちらに非があるような態度を貫き通したのが私には不満で、それはともかく、金井美恵子の小説(どれもセンテンスが長い!)を読むとしばしば、そこに書かれていることから逸脱して、たとえば上に書いたような、記憶の底に眠っていた些細な出来事に思いを馳せている自分に気づくのだ、ちょうど「軽いめまい」の主人公・夏美がマンションの台所で、「水道の水を眺めながら何を考えるのでもなく、ぼうっと放心する心地よさと虚しさ」を感じるように。
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