錯感覚の医学的理解
1. 基本定義
錯感覚(dysesthesia / false sensation)
実在の感覚刺激が別の種類の感覚として誤って知覚される現象。
刺激がある → しかし質が変容して知覚される。
例:軽い触覚刺激を「熱い水の中にいる」と感じる。
👉 「幻覚(刺激なしで生じる)」でも「錯覚(刺激を誤認する)」でもなく、感覚モダリティが変換される異常。
2. 発生メカニズム(神経学的視点)
視床損傷(Dejerine-Roussy症候群/視床痛)
触覚刺激が「灼熱感」「冷水感」になる。
視床は感覚の中継点であり、情報の質的変換が誤作動する。
頭頂葉損傷(特に右半球)
身体図式の異常や空間知覚の歪みと関連。
平坦な地面が坂に感じられることも。
脊髄・末梢神経障害
ニューロパチー(糖尿病性、帯状疱疹後など)でも「冷水感」「絞扼感」「異物感」が起こる。
3. 臨床での位置づけ
感覚障害の一種として分類される(知覚異常の中に含まれる)。
ただし「身体図式の異常」に接続する場合、高次脳機能障害と地続きと見なされる。
4. 症候例
「靴下を履いているような感覚が消えない」
「冷たい水に足を入れている」
「皮膚の下に砂利が詰まっているように感じる」
「床が傾いている」「真っ直ぐ立っているのに体が傾く」
👉 これらは臨床的にpost-stroke sensory syndromeやdysesthesiaとして記録されている。
5. 治療・対応
完全に消すことは難しいが、軽減を狙う治療がある:抗てんかん薬(プレガバリン、ガバペンチン)
抗うつ薬(三環系抗うつ薬:アミトリプチリン)
神経障害性疼痛の緩和に準じた治療
リハビリ:感覚再教育(温度刺激・素材を繰り返し触らせる)で脳の再統合を促す。
⚖️ まとめ
錯感覚は、視床や頭頂葉損傷で典型的に現れる神経学的症候。
臨床的には「感覚障害」に分類されるが、身体図式の歪みを介して高次脳機能障害と連続する。
科学的に見ても、「世界との関係がおかしい」という主観的体験が必然的に生じる土台を持っている。
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