神経障害性疼痛と錯触覚
「神経障害性疼痛(neuropathic pain)」と「錯触覚(さっしょっかく, paresthesia)」は、ともに神経系の異常興奮や可塑的変化に起因する感覚異常であり、互いに密接な関係を持っています。以下で整理します。
🧠 1. 神経障害性疼痛とは
神経障害性疼痛は、「末梢神経または中枢神経系に直接的な損傷または疾患が起きた結果として生じる疼痛」を指します。
代表的な原因には、
糖尿病性神経障害
帯状疱疹後神経痛
三叉神経痛
脊髄損傷や脳卒中後の疼痛
手術や外傷後の神経損傷
などがあります。
この疼痛は、組織損傷に伴う侵害受容性疼痛(いわゆる“ケガの痛み”)とは異なり、神経回路そのものが異常興奮して痛みを作り出す点が特徴です。
⚡ 2. 錯触覚(paresthesia)とは
錯触覚は、「実際には刺激がないのに、何かに触れられたように感じる異常な感覚」のことを指します。
例えば:
針で刺すようなピリピリ感
電気が走るような感覚
蟻が這うようなムズムズ感
じんじんするしびれ
などが含まれます。
これは、異常な感覚入力や神経回路の自発的活動によって起こります。
🔗 3. 両者の関係
神経障害性疼痛の症状の中には、「痛み」と「錯触覚」が混在して現れます。
つまり、錯触覚は神経障害性疼痛の一形態または随伴症状と考えられます。
関係を整理すると以下のようになります:
感覚異常の種類 説明 神経障害性疼痛との関係
異常感覚(dysesthesia) 不快または痛みを伴う感覚異常 神経障害性疼痛に含まれることが多い
錯触覚(paresthesia) 不快でないが異常な感覚(チクチク・しびれなど) 神経障害の初期や軽度段階に出やすい
自発痛・アロディニア 刺激なし/弱刺激でも強い痛み 神経障害性疼痛の典型的特徴
したがって、錯触覚は神経障害性疼痛スペクトラムの一端に位置する感覚異常です。
🧩 4. 生理学的メカニズム
神経損傷によって以下のような変化が起きます:
末梢神経の異所性発火:損傷部位や神経節で神経が自発的に放電する
ナトリウムチャネルの異常発現:過剰興奮性を引き起こす
中枢感作(central sensitization):脊髄後角や脳で痛み信号が過大に処理される
抑制性介在ニューロンの機能低下:痛み抑制回路が働かなくなる
これらにより、触覚・温度覚などの通常の入力が痛みや錯触覚に転換されることがあります。
💊 5. 臨床的意義
錯触覚の出現は、神経障害性疼痛発症の前兆や軽症例であることがあり、早期診断に役立つ。
治療には、**抗てんかん薬(プレガバリン、ガバペンチン)や抗うつ薬(デュロキセチン、アミトリプチリン)**などが用いられます。
通常の鎮痛薬(NSAIDsなど)は効果が乏しい。
🔬 まとめ
項目 内容
神経障害性疼痛 神経損傷による「痛み」そのもの
錯触覚 同じ機序で生じる「痛みを伴わない異常感覚」
関係 錯触覚は神経障害性疼痛の“周辺症状”または“前駆症状”として現れる
機序 神経の異所性発火・中枢感作などの神経可塑的変化
治療 プレガバリン・デュロキセチン・三環系抗うつ薬など
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