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2020年4月28日 (火)

【寄稿】かさぶたのせりふ

演劇の神様というのが、たしかに、いる。彼(あるいは彼女)はたいてい明け方、音もなく私の書斎に忍び込み、書きかけの原稿に宿るのだ。こうなればシメたもので、私は神様の命に従う登場人物たちの行動をつぶさに記録すればよい。
だが神様は揮発性の高い薬品のごとく、すぐにすっとどこかへ消えてしまう。わずか数行、擦り傷みたいに書き足された戯曲を残して。
そして消えてしまうと今度はなかなか姿を見せない。こちらから訪ねて行ければいいのだが、私は焦れながら、焦れったさと戯れながら、待つより仕方がない。ちょうどゴゴとディディがゴドーを待つみたいに。
そうして書かれた戯曲が幸運にも文化庁の賞をいただき秋に青年座で上演の運びとなった。脱稿から時を経て、擦り傷はすでにかさぶたになりつつある。それは稽古場でひっぺがされることになるだろう。痕に演劇固有の「血(ひょうげん)」が滲み出せばよいと思いつつ、私は新作に取り組み出す。[小学館「せりふの時代」(2005/VOL.34)『芝居で見る夢』]

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