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2018年9月18日 (火)

ランガージュ/ラング/パロール

言語学の用語。言語学者フェルディナン・ド・ソシュールが、一般言語学をめぐる議論のなかで区別した、言葉の三つの契機。ランガージュ(言語活動)とは、言語をはじめとする記号をつくり出し使用することを可能にするさまざまな能力およびそれによって実現される活動を指す。この能力、活動には、発声、調音など言語の運用に直接関係するもののほか、抽象やカテゴリー化といった論理的なものも含まれる。これに対して個々の社会のなかで、記号のつくり方や結び付け方、あるいは個々の記号の意味領域などをめぐる規則(いわゆる文法や語彙)が制度化されたものをラング(言語)という。フランス語や日本語といった各国語や、方言といった単位がこれにあたる。さらにこのラングという枠組みのなかでランガージュを機能させることにより実現する、具体的に発せられた個々の言葉がパロール(言)とよばれた。のちにフランスの言語学者A・マルティネAndr Martinet(1908―1999)は、両者の関係をコード(送り手と受け手のあいだで共有されている記号の構成規則)とメッセージ(コードにもとづいて構成・解説される記号)の関係になぞらえている。ただしラングはけっして一方的にパロールを規制するばかりではなく、実現したパロールの側から影響を受けて変化するものでもあるという、相互依存的な関係にあると考えられていた。
 ソシュールによるこの区別は、言語学の対象を厳密に規定しようとする彼の努力のなかに位置づけることができる。19世紀の比較言語学では、さまざまな言語の比較を通じて、それらのあいだの親族関係を解明する作業が進められていたが、各国語という伝統的な文法学の枠組みを超えたその作業のなかでは、言語をめぐる思考が陥りがちな、とりわけ言語を実在としてとらえることから来る混乱が明らかになった。ソシュールの死後弟子の手により編纂され出版された『一般言語学講義』Cours de linguistique gnrale(1916)はこの3区分を導入した上で、個人的、偶然的なパロールとは区別された社会的、本質的なラングをこそ言語学本来の対象として規定し、ある時点での体系を記述する共時言語学とその時間のなかでの変化をとりあげる通時言語学との区別を提示した。これは言語体系の静的な構造にまず注目する20世紀の構造主義言語学の流れをつくることになる。ただしソシュール自身は、パロールをその発声といった物理的、生理的側面と選択や結合といった精神的、心理的な側面にわけた上で、この後者の意味でのパロールの言語学をも構想していた。そもそもランガージュ/ラング/パロールの3区分は、言葉を一つの固定した実在としてではなく、複合的契機からなる力動的、弁証法的なプロセスのなかでとらえることを可能にするものであり、こうしたとらえ方はメルロ・ポンティやラカンらによって継承発展させられた。[原 和之]
『フェルディナン・ド・ソシュール著、小林英夫訳『一般言語学講義』(1972・岩波書店) ▽丸山圭三郎著『ソシュールの思想』(1981・岩波書店) ▽丸山圭三郎編『ソシュール小事典』(1985・大修館書店)』

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