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2018年9月 9日 (日)

身体図式の再構築

【目的】 左頭頂葉から後頭葉にかけての広範な出血後、多くの高次脳機能障害(軽度失語、観念運動失行・観念失行、構成障害、見当識障害、記憶障害、病識欠如、注意障害、右半側空間無視)を呈し、右片麻痺・感覚障害の程度に比べて重度の動作障害に至った患者を担当した。理学療法評価・脳画像所見を基に、この動作障害の背景には身体図式の障害があると仮説をたて理学療法介入を行った。その結果、動作の改善に至ったので考察を加え報告する。
【症例紹介および初期評価】 77歳女性、皮質下出血(左頭頂から後頭葉、一部前頭葉に小出血あり)であった。 運動麻痺はSIASmotor4,4,4,4,4、感覚障害はSIAStouch上肢3・下肢2、position上肢2・下肢1、膝立て動作の左右差は僅かであり、立体覚は保たれていた。体幹機能は、FACT9/20と四肢・体幹運動機能、感覚の障害は軽度であった。本症例の特徴としては、起居動作は可能であるものの、坐位から臥位となる際、枕に頭を合わせることが出来ず、ベッドの長軸に対し直角に横たわり修正しない、右下肢をベッドの外に残したまま気が付かないなどの様子がみられた。歩行形態は独歩であったが、数m歩くと揃え型歩行から右下肢が遅れ右前方へ転倒することが多かった。歩行中の右足の遅れや身体の傾きには転倒するまで気づくことができず、常に見守りから一部介助を要した。階段昇降は階段を目の前にすると、腰が引けた姿勢で手すりから両手を離すことが出来ず、一歩も踏み出せなかった。 視力・視野は概ね問題なかったが、ADLでは移動動作、食事、更衣、靴の着脱などで到達・把持障害を認め、介助が必要であった。上肢到達動作は、左上肢で行えば可能であり、対象物の相対的な位置関係は正答するが、右上肢を対象物まで正確に運ぶことが出来なかった。把持動作も、左上肢では可能であるものの、右上肢では対象物を把持する前に手指どうし、もしくは手掌が対象物に対し最適な距離・向きを形作っておらず、把持する準備が成されないまま動作が行われた。上肢と同様に右下肢にも到達障害がみられた。その結果、対象物の手前や左側での空振りが多く、行き過ぎてしまい対象物との衝突も度々見られた。対象物に触れることで修正は可能であった。到達・把持動作時には運動イメージとの違いを訴える発言が多く聞かれた。より速い動作を要求すると動作の正確性は著しく低下した。
【理学療法】 本症例における動作障害の主たる問題を身体図式の障害であると仮説をたてた。身体図式の再構築を期待し、四つ這い動作、くぐり動作、壁際歩行など視覚情報に加え体性感覚情報も利用できる身体活動を多く取り入れた。四つ這いで能動的に動くことで、両手両足支持による4点から多くの体性感覚情報が得られると考えた。平行棒の2つの棒に高低差を作ったくぐり動作では、棒をつかむことで視覚と体性感覚の両方を用いて棒の高さや自身と棒との奥行き感覚を測ることができ、視覚と体性感覚の感覚統合を促せると考えた。壁際歩行では、右手で壁を軽く触れた状態で壁と自分との距離を一定に保ちつつ歩行練習を行った。身体の傾きなど壁との距離が近づいた時には、壁にぶつかることで運動を修正するための情報になると考えた。体性感覚情報を利用した身体活動を通し、空間における自身の位置、対象物と自身との距離感を学習することで身体図式の再構築を促した。
【結果】 SIASposition下肢2、FACT11/20と僅かに下肢位置覚と体幹機能に改善がみられた。起居動作では、枕に頭を合わせベッドに添って寝るようになり、歩行は歩幅に左右差はあるものの交互型となり、ふらつきを自身で気づき修正できた。階段昇降は2足1段で手すりを使用することで可能となったが、段差の高さ・奥行きに対して正確に下肢を運ぶことは出来ず、代償および介助が必要であった。到達・把握障害の程度は改善され触覚による代償を用いてセルフケアは自立した。
【考察】  頭頂連合野は体性感覚野から触覚などの情報を受け、自分自身の認知に関与し、視覚野から空間感覚に関する情報を受け物体間や物体と自分自身との位置関係の認知に関与している。 本症例のADL場面では、運動麻痺や障害側の感覚障害よりも、枕に合わせて寝ることが出来ない、対象物にうまく手を伸ばせない、歩行時に足が遅れても気づかないといった特徴的な動作が目立った。これは、感覚検査で明らかになるような感覚ではなく意識に上らない感覚の障害であること、また非障害側も参加する全身的な動作障害であることから、障害側のいわゆる運動麻痺や感覚障害だけでは説明できず、身体図式に障害を来した状態と考えられた。理学療法介入により、身体図式が再構築されたことで動作改善に至ったと考える。
【説明と同意】  本報告にあたり、症例・ご家族に症例報告の意義を説明し同意を得た。

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