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2017年5月25日 (木)

色川武大『生家へ』

全11篇からなる連作。滑稽でもあり、痛々しくもある、一家の徒労と孤立。
「母親の落胆を見たくない一心で」ついた「私」の嘘。
嘘というより、口から出まかせ。
それが母親の期待を高め、さらなる嘘を重ねるハメになる。
耳の中でリズムが鳴っていた。私にできることは、ただひたすら走り、その苦痛を甘受し、やがて当然やってくる本当の苦痛をいくらかでもやわらげることだった。

母親の期待に応えるべく、「私」は家族の出払った生家に塀を乗り越え侵入し、父親の大礼服や勲章、母親の晴着も売り払ってしまう。
私は何をしているのだろうと思った。ところがそれ以外の生きざまは、どうしても考えられないのだった。

生家の床下には穴がある。それは父親が戦争中に、なぜか、掘ったもの。そのせいで、家はゆがんでしまうが、
穴を除外してはこの家は考えられなくなっていた。掘ったのは父親だったけれど、掘られてみると否応なく皆のものだった。

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