海底トンネル
川崎市の工場地帯、千鳥公園の一画に、海底トンネルの入口がある。
軽い工場マニアの私がはじめてこれを見つけたのは、もう十年くらい前だったか。たしか冬。日の暮れてかけた公園の片隅に、ぽつんと明かりが灯っていた。
階段を下りていくと、扉が閉じている。なんだ、入ることはできないんだな。と、何か貼り紙がされてある。近づいてみると、いきなり扉が開いて、ぎくりとした。ドアの奥に進み、さらに階段を下りていく。貼り紙の内容は忘れてしまった。
トンネルはまっすぐ続く。出口は見えない。〈歩行者専用通路なので自転車を降りるように〉と促すアナウンスの女の声が、エンドレスで流されている。不気味…。
行き先のわからぬまま、とりあえず、歩いてみる。しかし歩いても歩いても果てがない。だんだん恐くなってきた。引き返そうかと思い、振り返ったときにはすでに、ずいぶん進んだ後で、前方と同じく、後方にもまっすぐな道がどこまでも続いている。実際、少し引き返した。けれど、ここまで来たら、やはり前進した方が早いのでは? そう思い直して再び踵を返す。いやいや、待てよ…と優柔不断に行ったり来たり。結局どちらにもたどり着けぬまま永遠にこのトンネルに閉じこめられ、このまま一生を終えるのではなかろうか?
海底トンネルの長さは約1キロ。到着した先は東扇島。あらかじめわかっていれば、さほど長くもない距離だ。
海の向こうに、さっきの千鳥公園が見える。
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