転移
昔、テレビのCMで、美川憲一が「もっと端っこ歩きなさいよぉ~」っていうのがあったが、同じ目に遭ったことがある。
その声に振り向くと、見知らぬ爺が何やら捨て台詞を吐いて、私の傍らを、ふらふら自転車で追い抜いていった。
私はカチンときた。
追いかけて胸ぐらを掴み文句の一つも言ってやろうかと思ったが、さすがに大人気ないので、我慢した。
***
しかしなんであんなに腹が立ったのだろう、と後になって考えてみる。
私は一つの仮説を立てた。以前、こんなことがあったのだった。
マンションの近隣住民とのやりとりで、筋の通らぬ相手の要求を拒否したところ、意趣返しで、やれゴミの捨て方が悪いだの自治会への加入率が低いだの、管理組合にあーだこーだ難癖をつけてきた爺がいた。この爺、とにかく言うことが支離滅裂で、論理というものがまるで通じない。そのくせ、「老人=弱者」というステレオタイプを活用し、「かわいそうな自分」を自己演出して周囲にアピールする狡猾さだけは持ち合わせている。
これだ。つまり自転車爺への私の怒りは、本来、この難癖爺へと向けられていたものだった。それが、「爺」という類似を蝶番として、いわば怒りが「転移」したのである。
なるほど、そんなこともあるのだな、と我ながら感心し、いい取材になった、と思えば、怒りも収まった。
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