レア盤
世界に一枚しかない私のピアノ演奏の音源。というのはウソではないが、要するに幼稚園時代のピアノの発表会の模様を収めたレコードだ。
むろん自主製作で、世間に流通はしていない。親バカのなせるワザである。
私はラクダ色の半ズボンに白のタイツを穿いていた、と記憶するが、その記憶はたぶん、当時の写真を後で見てのものだろう。
だがステージに上がる直前のことは、ダイレクトに憶えている。
私はピアノの先生に付き添われて下手(しもて)の舞台袖にスタンバイしていた。
ステージでは、何人か、女の子の演奏が続いた。
「いよいよ次は男性ピアニストです」
MCが私を紹介した。「男の子」でなく「男性」という言い方にか、あるいは「ピアニスト」という仰々しさにか、観客がどっと笑った。先生も笑い声を上げた。
私はすでにステージに向かい歩き出していたのだが、あわてて舞台袖に踵を返した。「間違えた!」と直感して。
「いいのよ、いいのよ」
先生が私を回れ右させ、再びステージに押し出した。
私は黄色いバイエル程度の難易度の曲を2曲、弾いた。なんで笑いが起きたのかわからず、憮然として。それでも教えられた通り律儀にスタッカートなんかしてるのが、自分で言うのもなんだけれど、かわいらしい。意外とテンポもキープしている。が、いかんせんミスタッチが多く、時を隔ててレコードを聴く私が、ひやひやしてしまう。
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